OBS Studio(以下OBS)を使用していて、以下のようなことで悩んだ経験はないでしょうか。
- 自分の配信は画質が悪い(ほかの配信者は高画質なのに)
- カクカクする、カクつく、PCが重い(低スペックではないのに)
さまざまな原因が考えられますが、ひょっとしたら映像エンコーダーの設定が関係しているかもしれません。
このページでは、映像エンコーダーの意味・設定方法について見ていきましょう。おすすめ設定もご紹介します。
「設定」→「出力」タブには難しい用語が多く登場しますが、あまり深追いする必要はありません。
基本的にはライブ配信を想定した記事ですが、録画についても適宜言及します。
録画については、「OBSで超高画質録画するための、シンプルなポイント。じつは数字をいじるだけ」も併せてご覧ください。
目次
おすすめ設定は?
下記画像は映像エンコーダーのおすすめ設定です。基本的に初期設定から大きく変更する必要はありません。
設定画面の開き方は以下のとおりです。
- 「設定」→「出力」の順にクリックする。
- 「出力モード」を「詳細」にする。
- その下の「配信」をクリックする。
注意点が3つあります。
- 「音声エンコーダ」で「CoreAudio AAC」を選べるのは、iTunesをインストールしている環境だけ
- 「映像エンコーダ」に表示される項目はPCによって異なる(後述)
- 「ビットレート」は、配信サイトの仕様を考慮する必要あり(後述)
Twitchで配信する場合は、「Enhanced Broadcasting」機能を使って自動的に設定することもできます。
映像エンコーダーとは
データ量を減らすプログラム
まず、「映像エンコーダ」はなにをさしているのでしょうか。
OBS上の「映像エンコーダ」とは、画質を落としてデータ量を減らす(圧縮する)ためのプログラムのことです。
「画質を落とす」と聞くと「えっ?そんなのイヤだよ」と思うかもしれません。
しかし、画質をまったく落とさずにライブ配信し、その画質で視聴してもらうのはデータ量が膨大すぎて不可能です。
できるだけオリジナルから画質が落ちないようにしつつ、データ量を減らすのが映像エンコーダーの役割です。
- 映像エンコード : 画質を落としてデータ量を減らすこと
- 映像エンコーダー : それを実現するためのプログラム
重要な理由
OBSでは「映像エンコーダ」で複数のエンコーダーを選べるようになっています。
どれを選ぶかによって、端的に2つ違いがあると思ってください。
- 画質・品質
- PCにかかる負荷
したがって、「映像エンコーダ」の設定はとても重要です。
映像エンコーダーを選ぼう
超定番のNVENC H.264
「映像エンコーダ」で選べる設定項目は、PC環境やOBSの設定によって異なります。下表をご覧ください。
説明 | |
x264 | すべてのPCで選択できる |
NVIDIA NVENC H.264 | GPUがGTX/RTXシリーズの場合に選択可能 |
NVIDIA NVENC HEVC | 同上、HEVCの別名はH.265 |
NVIDIA NVENC AV1 | GPUがRTX 40シリーズの場合に選択可能 |
AOM AV1 | 通常は選ばない |
SVT-AV1 | 通常は選ばない |
QuickSync H.264 | インテル製の内蔵GPU(第5世代以降)の場合に選択可能 |
QuickSync HEVC | インテル製の内蔵GPU(第6世代以降)の場合に選択可能 |
AMD HW H.264 (AVC) | AMD製の内蔵GPU、Radeonの場合に選択可能 |
AMD HW H.265 (HEVC) | AMD製の内蔵GPU、Radeonの場合に選択可能 |
アップル VT H264 ハードウェアエンコーダ | Macの場合に選択可能 |
「x264」は、どんなPCでも表示される映像エンコーダーです。以前はライブ配信でもよく使われていました。
しかし、x264はどうしてもPCに大きな負荷がかかる(重い、カクカクする)というデメリットがありました。
PCのCPU負荷(CPU使用率)が上昇し、スペックによってはスムーズに配信できないケースもあったのです。
そこで、近年ではもっと低負荷でライブ配信できる「NVIDIA NVENC H.264」を使うのが主流になっています。
これはPCのグラフィック機能を担当しているパーツであるGPUを使ったエンコード方法で、GPUエンコードまたはハードウェアエンコードと呼ばれる方法です。
ただ、どんなPCでもNVENC H.264を使えるというわけではありません。「Geforce RTX/GTX」シリーズが搭載されている必要があります。
▲同シリーズは「NVIDIA」というメーカーのGPUです。タスクマネージャーを開くとGPUがわかります。画面下部のバーのなにもない場所で右クリックし、「タスクマネージャー」をクリックしてみてください。
選べない場合は
「NVIDIA NVENC H.264」を選べない場合は、ほかの映像エンコーダーにしましょう。
画質重視なら「x264」ですが、PCが重くなりがちです。「AOM AV1」と「SVT-AV1」は選びません。
もし今後、NVENC H.264を使ってライブ配信したい、新しいPCが欲しいということであれば、ゲーミングPCを購入するようにしてください。
さまざまなNVENC
ひょっとしたら、「映像エンコーダ」の部分で「NVIDIA NVENC AV1」や「NVIDIA NVENC HEVC」を選びたいという人もいるかもしれません。
▲「NVIDIA NVENC AV1」は、RTX 40シリーズを搭載するPCで表示されます。
▲「NVIDIA NVENC HEVC」は、RTX/GTXシリーズを搭載するPCで表示されます。
どちらも「NVIDIA NVENC H.264」と比較すると画質的に有利な設定です(圧縮効率がよい)。
▲『ソウルキャリバー 6』(バンダイナムコエンターテインメント)より
たとえば、NVENC H.264とNVENC AV1で同じような画質設定にしたとしたら、後者のほうが高画質な配信になるのです。
説明 | |
H.264 | 古いが、普及率が高い |
AV1 | 新しい規格で高画質・高圧縮だが、まだライブ配信では普及していない |
しかし、2024年現在、NVENC AV1とNVENC HEVCの2つを積極的に選ぶ人は多くないでしょう。
その理由のひとつが、AV1やHEVCは大半の配信サイトで対応していないからです。ライブ配信の世界で2大巨頭であるTwitchとYouTubeの対応状況は下表のとおりです。
AV1 | HEVC(H.265) | H.264 | |
Twitch | ×(対応予定) | ×(対応予定) | ◯ |
YouTube Live | ◯ | ◯ | ◯ |
もしAV1を使った高画質配信に興味がある場合は、下記ページをご覧ください。YouTube用の設定方法をまとめました。
そう遠くないうちにAV1がライブ配信の世界で普及すると思いますが、まだ慌てる段階ではありません。
なお、上記環境で選べない場合は、OBSをバージョン29.1以上にしたうえで「設定」→「配信」→「サービス」を「YouTube - RTMPS」または「カスタム...」にしてください。
NVENCの設定をしよう
ここからは、ユーザー数が多いと思われるGeforce RTX/GTXシリーズを搭載したPCであることを前提に解説していきます。
- NVIDIA NVENC H.264(おすすめ)
- NVIDIA NVENC AV1
- NVIDIA NVENC HEVC
「映像エンコーダ」の部分で別のエンコーダーを選んだ場合、表示される設定項目も変わるので注意してください。
レート制御
レート制御とは、ビットレート(後述)の制御方法のことです。
いまは用語を聞いてもピンとこないと思いますが、ライブ配信では「CBR」ほぼ一択と考えてください。
説明 | |
CBR | ・ビットレートが一定(固定ビットレート) ・多くの配信サイトが推奨(おすすめ) ・ただし実質的にはVBR |
CQP | ・ライブ配信には向いていない ・録画ではおすすめ |
VBR | ・ビットレートが変動(変動ビットレート) ・ライブ配信ではほぼ選ばない |
無損失 | ・ライブ配信では使うことはない ・録画でもあまり使わない(ファイルサイズ大) |
うっかり「CQP」を選んでしまうと、映像が激しく動く場合に突発的にビットレートが跳ね上がり、配信が止まる可能性があるでしょう。
「レート制御」でどれを選ぶかによって、表示される設定項目が違う場合があります。以下、ライブ配信用にCBRにしていることを前提としています。
ビットレート
ビットレートとは、ここでは映像1秒間あたりのデータ量のことです。数字が大きいほど高画質と思ってください。
細かい話を抜きにすると、6,000kbps(キロビーピーエス)が無難な設定になります。
ただし、これはあくまでも「無難」なだけであって、より正確には3つの要素を考えて設定しなくてはいけません。
- 配信サイトの仕様
- アップロード速度
- 「設定」→「映像」→「出力 (スケーリング) 解像度」と「FPS 共通値」の設定
つまり、単純に「6,000kbpsにすればいいよ」というわけではなく、もっと小さい数値に設定にしなくてはいけないケースや、大きな数値に設定できるケースがあります。
ビットレートの目安については、下記ページをご覧ください。
キーフレーム間隔
キーフレーム間隔とは、動画エンコードにおいて完全に独立した1枚絵であるキーフレームを入れる頻度のことです。
説明が意味不明だと思いますが、難しく考える必要はありません。ここは2秒に設定してください。多くの配信サイトが2秒を推奨しています。
TwitchやYouTubeなど「設定」→「配信」→「サービス」で表示される配信サイトについては、そのサイトの仕様に沿うかたちでキーフレームが自動的に設定されます(設定不要)。
「出力モード」が「詳細」ではなく「基本」になっていると、「キーフレーム間隔」は表示されません。ただ、「詳細」の場合と同様、自動設定される場合があります。
プリセット
プリセットとは、あらかじめ用意されている品質設定のことです。これを変更することで品質・負荷が変わってきます。
「プリセット」の部分でP1~P7まで選ぶことができ(OBS 28.1以降)、数字が大きいほど高品質・高負荷となります。
- 高品質にしたい → 「P5: Slow (高品質)」「P6: Slower (より高品質)」など
- 低負荷にしたい → 「P3: Fast (低品質)」「P4: Medium (中品質)」など
通常は初期設定の「P5: Slow (高品質)」から品質を上げる必要はありません。「P7: Slowest (最高品質)」にすると露骨にPCが重くなります。
興味がある場合のみ、設定を変更してみてください。
NVENCの細かい設定
ここで見ていく設定は、少し細かいものとなります。初期設定から変更する必要性は高くありません。
チューニング
チューニングは、品質と遅延のどちらを重視するかの設定です。
「高品質」「低遅延」「超低遅延」の3つから選べますが、初期設定の「高品質」から変更する必要はありません。
マルチパスモード
マルチパスモードとは、動画をエンコードするさい事前に映像を解析するのか、しないのかという設定です。
初期設定の「2パス (1/4 解像度)」は、(1)映像全体を解析してビットレートの配分を決定し、(2)それをもとにエンコードする方式です。
メリットとして品質の向上が見込めますが、GPU負荷が上昇し、処理に時間がかかる点がデメリットです。
他方、「1パス」では2パスのような解析は行いません。
教科書的な考え方をすると、「レート制御」で「CBR」を選んだときは2パスは意味がなく、1パスを選ぶべきとされます。
しかし、現代のCBRの実装方法ならば2パスにも意味があるという考え方もあります。
もしどちらがよいか迷った場合は、「NVIDIA NVENC OBS Guide」に従って「2パス (1/4 解像度)」を選んでおけばよいでしょう。
▲NVIDIAの公式ガイドでは、「レート制御」を「CBR」にしたうえで「マルチパスモード」を「2パス (1/4 解像度)」にしています。
プロファイル
プロファイルは、「映像エンコーダ」で「NVIDIA NVENC H.264」を選んでいるのであれば「high」にしておきます。
Look-ahead
Look-ahead(ルックアヘッド、先読み)は、ONにすることで視覚的に品質向上が見込めるかもしれないオプションです。
動画エンコードの世界にはBフレームという概念があるのですが、「Look-ahead」をONにすると0から「最大Bフレーム」で設定した範囲内でBフレームを動的・可変的に挿入します。
「Look-ahead」が難しいのは、ONにすることで逆に画質が落ちるケースがある点でしょう。激しく動く映像の場合に注意が必要です。GPU負荷も上昇します。
もし不安ならばOFFでかまいませんが、興味がある場合はON/OFFで画質を比較してみてください。
「Look-ahead」をOFFにすると、「最大Bフレーム」で設定したBフレーム数がつねに使用されます。
心理視覚チューニング
心理視覚チューニングは、動きが激しい映像の場合にビットレートの使用が最適化され、視覚品質が向上します。
この設定は常時ONにしておきましょう。
GPU負荷が気になる場合はOFFにしてもかまいませんが、ONにしておくメリットは大きいです。
まだある高画質関連設定
高画質配信するための映像エンコーダーの設定は完了です。
ただ、もし余力があるなら「設定」→「映像」の部分で解像度・フレームレートの設定を行いましょう。
ここはビットレートの設定との兼ね合いでとても重要な部分です。
たとえば、以下の設定でFPSのゲーム配信をしたら画質が悪くなるでしょう。
- 映像ビットレート : 3,000kbps
- 出力 (スケーリング) 解像度 : 1920x1080
- FPS 共通値 : 60fps
解像度に対して映像ビットレートが極端に不足しているからです。
したがって、解像度・フレームレートの設定も手を抜けません。詳細は、下記ページをご覧ください。
また、高画質設定にしたことでカクつくようになった場合は、下記ページに対処法をまとめました。
2006年から15年以上、ゲーム実況のやり方の解説記事を書いています。書いた記事数は1,000本以上。ゲーム配信、ゲーム録画、動画編集の記事が得意です。
記事はていねいに、わかりやすく!ゲーム実況界の教科書をめざしています。